2006年06月29日

検査体制と検査態勢

「検査タイセイが整った」とか「検査タイセイを見直す」とかいう場合、漢字ではどう書くべきでしょうか。「検査体制」か、それとも「検査態勢」か。

「朝日新聞」2006.06.22 p.3の米産牛肉輸入問題に関する記事には、
輸入停止のきっかけとなった背骨混入のような問題を見逃さないため、日本の港での検査態勢も強化する。当分の間は業者の協力を得て輸入する全箱を確認する。
とあり、「態勢」の字を使っています。ところが、その同じ紙面に載っている社説は
 1月に輸入が再び止められたのは、牛海綿状脳症(BSE)の原因物質がたまりやすい背骨が牛肉に交ざっていたからだ。米国の処理施設の安全管理がずさんで、農務省の検査体制も甘かった。
と、「体制」を使っています。どちらかが間違っているのでしょうか、それとも、使い分けているのでしょうか。

『朝日新聞の用語の手引』(1997.07.10第1刷発行)によれば、
たいせい
 =体制〔恒久的、統一的な組織〕教育体制、五五年体制、戦時体制、反体制
 =態勢〔一時的な身構え、状態〕受け入れ態勢、スト態勢、選挙態勢、独走態勢、臨戦態勢
とあります。米農務省の場合は、検査のための恒久的、統一的な組織を作ったので「検査体制」、港の場合は一時的に対応するので「検査態勢」と使い分けたのでしょうか。

ところが、少し前の解説記事(2006.03.30 p.11)では、同じくアメリカ政府の牛肉に関する対応に関して、「検査態勢」を使っています。
 危険部位の背骨が混入したためストップしている米国産牛肉の輸入再開に関する日米専門家会合で、日本側が米国側に大きく歩み寄った。米国側の検査態勢そのものに強い疑義を唱えたのが、一転して米国側の説明に理解を示し、両国が「一定の共通認識」に達した。
ここに出てくる「米国側の検査態勢」は、さっきの記事の「農務省の検査体制」と、同じものを指しているはずです。同じものについて「検査体制」と書いたり「検査態勢」と書いたりしています。これは、単なる表記のゆれでしょう。

サンプル数を増やしてみます。過去の「朝日新聞」の記事データベースを調べると、ここ3か月(2006.03.25―06.24)では、「検査体制」=11件、「検査態勢」=15件が拾われます。「検査態勢」がやや優勢ですが、この程度なら「半々」と考えていいでしょう。ここ2年間(2004.06.25―)でも、「検査体制」=100件、「検査態勢」=96件で、やはり伯仲しています。

ところが、もう少し範囲を広くとってみると、話が変わってきます。この10年間(1996.06.25―)では「検査体制」=501件、「検査態勢」=421件で、「体制」のほうがはっきりと多くなっています。さらに、その前の10年間(1986.08.14―1996.06.24)を見ると、「検査体制」=273件、「検査態勢」=78件で、「体制」のほうが3倍以上多いのです。

昔は「検査体制」と書くことが多かった。時代が新しくなるにつれて、「検査態勢」と書くことが増えて、今ではどちらもよく使うようになった。「朝日新聞」の場合は、このように言うことができます。

ついでに、「読売新聞」を調べてみると、次のような結果になりました。
最近3か月 「検査体制」=14 「検査態勢」=11
過去2年間 「検査体制」=197 「検査態勢」=46
過去10年間 「検査体制」=1078 「検査態勢」=136
その前の10年間 「検査体制」=289 「検査態勢」=0
「読売」は「朝日」よりは「体制」と書く場合が多いものの、やはり、昔はほとんどなかった「検査態勢」が、最近はよく使われるようになっているということでは、「朝日」と同様です。古い例ではどちらの表記も少ないのは、データベース自体が不備だったからです。

このように、長期にわたって傾向が変化しているということは、必ずしも、特定のニュースが変化の原因ではないのでしょう。新聞社の校閲の人も含めて、「体制」および「態勢」ということばから受け取る語感が、少しずつ変化しているということではないでしょうか。

なお、「検査タイセイを敷く」という場合、「体制」は使えても、「態勢」は無理だろうと思います。また、「検査タイセイを確立する」も、「体制」しか使えないだろうと思います。前後に来る語によっては、ほとんどゆれの見られない場合もあるでしょう。

posted by Yeemar at 07:10| Comment(1) | TrackBack(0) | 文字・表記一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回 全く関係のない 質問ですが 私は最近こだわっている単語があります。NHKのアナウンサーも時々使いますが、市場としじょうの使い分け 私は市場は毎日入荷する魚、野菜等々のせりをする場所 そして しじょうとは それらを販売する広範囲のマーケットを意味すると思うのですが私の間違いでしょうか?博学の年寄りの拘りですがご教授ください。
Posted by 青山 at 2006年12月14日 23:32
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