2006年06月20日

「月数」は「つきすう」

「日数」は、ごく平凡なことばです。「にっすう」または「ひかず」と読みます。では、「月数」ということばはあるでしょうか。あるとすれば、どう読むでしょうか。

「月数」は、実際に使われていることばです。新聞には
「前髪・横髪・後ろ髪の長さを測り、正規の状態になるまでの月数を記入しておいて適時点検をする。〔天声人語〕(「朝日新聞」1985.04.22 p.1)
のように出てきます。ただ、あまりにも簡単な文字であるため、ふりがなもなく、何と読むのか分かりません。

このことばを載せている辞書は少数派です。『日本国語大辞典』(初版から)、『大辞林』(第2版から)および『新明解国語辞典』(第4版から)には「つきかず」の見出しで載り、『大辞林』には「つきすう。」と言い換えが添えてあります。私自身は、「月数」という文字を見ると「げっすう」と読みたくなります。「にっすう」とくれば、「げっすう」が自然のような気がするからです。

このほかの国語辞書は、調べた範囲では、「月数(つきかず・つきすう・げっすう)」を載せているものは見当たりません。『広辞苑』(「つきかず」に別の意味あり)『大辞泉』『小学館日本語新辞典』『集英社国語辞典』『新潮現代国語辞典』『岩波国語辞典』『新選国語辞典』『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』『デイリーコンサイス国語辞典』(いずれも現行版)にはありませんでした。『新明解日本語アクセント辞典』にもありません。

『講談社類語大辞典』には「月数(つきスウ)」として載っています。類語辞書であるため、「日数」「年数」があれば「月数」も載せなければおかしい、と考えたためでしょうか。「つきかず」と読むかどうかには言及がありません。

さて、こうなると、実際には「月数」をどう読む場合が多いのか、知りたくなります。といっても、「月数」をふりがなつき、またはかな書きにしている文章はそれほど多くありません。ネットで「月数 つきすう」で検索すると、いくらかはそういう例が拾われますが、ちょっと物証としては頼りない気がします。

そこで、国会の例を調べることにします。国会の議論の模様は、過去一定期間のビデオをネット上で視聴することができます。音声を聞くことができるので、「月数」を何と発音しているかが確認できます。

調査対象は衆議院とします。まず、「国会会議録検索システム」で「月数」の使用例を調べます。その後、「衆議院TV」によって音声を確認します。

なかなか面倒な作業ですが、やっと10例を拾い出しました。以下に結果を示します。

(a)「つきすう」と発音する例(7例)
○青柳親房〔社会保険庁〕政府参考人 これらに係ります免除、納付猶予等の対象月数{つきすう}につきましては(第164国会・衆議院決算行政監視委員会 6号 2006.06.08)
○土屋正忠分科員〔自由民主党〕 さらに、かてて加えて、月数{つきすう}が足りなくなっちゃうから(第164国会・衆議院決算行政監視委員会第四分科会 1号 2006.06.05)
○中川泰宏委員〔自由民主党〕 それぞれの場所で、年数、月数{つきすう}が違います。(第164国会・衆議院農林水産委員会 6号 2006.03.23)
○望月晴文〔中小企業庁長官〕政府参考人 残された月数{つきすう}が少なくなりますと、(第164国会・衆議院経済産業委員会 5号 2006.03.17)
○川崎二郎国務大臣〔厚生労働大臣〕 そういう意味では、厚生年金と共済年金、掛金額、月数{つきすう}、掛けていって、(第164国会・衆議院予算委員会 3号 2006.01.27)
○佐藤壮郎〔人事院総裁〕政府特別補佐人 支給月数{つきすう}を〇・〇五月分引き上げることとします。(第163国会・衆議院総務委員会 2号 2005.10.06)
○宇野治分科員〔自由民主党〕〔略〕何か残った月数{つきすう}分戻すというような面倒くさいことをやっていたということであります。(第162国会・衆議院予算委員会第二分科会 1号 2005.02.25)

(b)「げっすう」と発音する例(1例)
○田島一成〔民主党・無所属クラブ〕 診断が確定をしてからはかなりの月数{げっすう}がたってしまうことになります。(第164国会・衆議院環境委員会 1号 2006.01.27)

(c)「げつ(げっ)」と言った後「つきすう」(2例)
○橋本元一〔日本放送協会会長〕参考人 各役職ごとの報酬月額掛ける在任月数{げつすう}、月数{つきすう}ですね、(第162国会・衆議院総務委員会 10号 2005.03.15)
○西博義厚生労働副大臣〔公明党〕 納付率算定の際の分母となる納付対象げっ……月数{つきすう}が減少すると同時に、(第162国会・衆議院厚生労働委員会 2号 2005.02.23)

これらによれば、7人が「つきすう」を使い、ほかの2人も(c)のように言い直して「つきすう」にしています。「つきすう」が圧倒的多数派ということになります。残りの1人は「げっすう」で、これは私の言い方と同じです。この中には「つきかず」はありませんでした。

衆議院での発言者、それも10人10例だけを見ただけですが、統計的サンプルにはなりうる数でしょう。彼らは国民の代表だから、というわけではありませんが、この結果を根拠に「世間では『月数』を『つきすう』と読む人が多いようだ」と判断してもかまわないでしょう。現代語の辞書ならば「つきすう」の形で載せるのがよいと思います。
posted by Yeemar at 09:36| Comment(5) | TrackBack(0) | 語彙一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おもしろいですね。
個人的な感覚としては、「げつすう」がしっくりきます。
(「げっすう」ではなく。)

国会の会議は口頭主義が支配するんでしょうか。
「げつ」と云いかけて「つき」と訂正するという例は、もしかしたら、ただ字面を読む場合は「げっ」又は「げつ」と読むのが通常だけれども、喋り言葉の内容を正確に伝える要請が大きい場面で、「字面を読まないで聞くだけの他人」にとってはそれではぱっと聞いて理解されにくいのではないかと考えて言い直しているような気もします。
Posted by とーやま at 2006年06月22日 22:06
コメントが遅くなりました。

「私立大学」を「わたくしりつ大学」と発音するのと同様ではないかとのご指摘ですね。「月数」は「げっすう」と読みたいけれども、聞き手に分かりやすいように、あえて「つきすう」としていることですね。これはありうることだと思います。

ただ、「ゲツ」という音読みをもつ漢字は、ふつうに使われるものとしては「月」ぐらいしかなく(ほかに「齧歯類」の「齧」などもありますが)、「月」を「ゲツ」と発音しても、理解を妨げることにはならないはずです。それなのに、あえて「つきすう」という湯桶読みがよく使われるのは、不思議ではあります。

上のサンプルでも、「げっすう」が1例あります。「げつすう」はNHK会長が使って、言い直しています。もう少し調べれば、公に使われた「げっすう」「げつすう」の確例がもっと出てくるかもしれません。
Posted by Yeemar at 2006年07月02日 23:46
私は「つきすう」派です。この感覚は、一月を「ひとつき」と読むところから来ているような気がします。一日は「いちにち」ですから、日数が「にっすう」であることとも矛盾しません。

しかし、二日〜十日が「ふつか」〜「とおか」なのに、一日が「ひとか」でないのはなぜなんでしょうか。
Posted by ヒルネ at 2007年03月29日 01:42
新聞の投書欄を点訳をしていて、この「月数」のよみに拘り、この記事に出会いました。同じ疑問を持たれた方がいると、嬉しく思いました。
広辞苑、大辞林、国語辞典を調べ、同じ結論に達していました。
私は、”つきすう”と迷わず、読みました。ただ、点訳する際の注意として
自分の思いこみで読んでいないか、正しい読みかを再度確認する必要があり念のためにと調べたのです。校正でどうなるかはわかりませんが、ツキスーと訳すことにします。
Posted by さささーん at 2007年06月21日 16:52
月数はげっすうが良いと思います。
なぜなら音読みと音読みが自然だからです。
Posted by 通りすがり at 2013年03月07日 19:07
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