2006年02月20日

「川の魚」と「川魚」

青い空と青空」の続きです。

NHK「お元気ですか日本列島」の中の「気になることば」で、拙著『遊ぶ日本語 不思議な日本語』から「古い新聞」と「古新聞」の違いについて取り上げていただきました。

「古い新聞」と2語で言うときは、一般的な形容です。家の新聞も図書館に保存してある新聞もみな「古い新聞」に該当します。ところが、「古新聞」と1語にしてしまうと、意味が限定されます。図書館に保存してある新聞は「古新聞」ではありません。

このことを、梅津正樹アナウンサーが絵を使ったりして、分かりやすく説明していました。教室で教えるときにも、ああいうふうに絵を使えば学生にもよく分かるだろうと思いました。全体として楽しく見ることができました。

ただ、見ていて、注文したいこともありました。番組では、ほかに「安物」と「安い物」、「北の風」と「北風」、「昔の話」と「昔話」などを対照して意味を比べていましたが、その次に「黒い幕」と「黒幕」というのが出て来ました。
梅津 (両方の語は)布のことと人のこと、もうまったく違う。もちろん、(人物の意の)「黒幕」というのは黒い幕からね、語源はそっから来てることは来ているんですが、今やまったく別の物を指し示すようになった。
このあたりは、よくいえば、話が発展していますが、話がそれているようでもあります。別の例にしたほうが、よりよかったと思います。

私としては、複数のことばが熟語としてくっつくとき、「一見、意味に変化がないようでも、よくよく考えてみれば、繊細な違いが生まれている」という点に、面白さを感じます。ところが、「黒い幕」と「黒幕」は、番組中でも明言されているように「まったく違う」ものです。はっきりしすぎて、考える余地がなくはありませんか。まあ、子どもに示す例としては、かえってこのような分かりやすい例のほうがいいのかもしれませんが。

「古い新聞」が「古新聞」、「北の風」(北から吹く風)が「北風」(特に冬に吹く風)に変わるとき、気づかれにくいが、厳然とした意味の差が生まれています。このことについては、古くは、松下大三郎の著書にも言及があって、「春風」を「春」と「風」に分けると2語になるように見えるが、実はそうでない(『改撰標準日本文法』p.20)と記されています。影山太郎氏の『文法と語形成』(ひつじ書房)p.8の「語彙化と意味の慣習化」にも、「春風」その他の例が挙げられています。

私の文章は、単にこの事実を確認する例をいくつかつけ加えたにすぎません。ただ、「言われなければ違いに気づかない」ような例を探してきて、ああでもない、こうでもない、と考察を加えたところが、労力を使っているといえばいえます。番組でも、ぜひ「言われなければ違いに気づかない」例をもっと集めてほしかったと思います。

そういう例を1つ足しましょう。「川の魚(さかな)」と「川魚(かわざかな)」とは、意味に違いがあるのでしょうか。晩ご飯のときにそれを話題にしたところ、妻は、「『川魚』は食べられるが、『川の魚』は必ずしもそうではない」という意見を言いました。なるほど、と思いましたが、用例を調べてみると、その説に合わない例も出てきます。「メダカ」などの観賞魚も「川魚」というのです。

ただ、こういうことがあります。「Google」で検索された「"川の魚"」を含むホームページのうち、上位50位には魚屋・魚料理の店のホームページは1つもないのですが(2006.02.20現在。ただし漁連・漁協関連のページ3つを含む)、「"川魚"」を含むホームページのうち、上位50位には魚屋・魚料理の店のページが20以上あります。こうした店では「川魚」をよく使うという傾向性はありそうです。そのかぎりでは、「『川魚』は食べられる」という、妻の直感的内省は、あながち的外れでもないのです。

「複数のことばが熟合して1つになるとき、意味の変化が起こる」という説明はひとことですみます。でも、「川の魚」と「川魚」など、具体的な事例でどのようにその変化が起こっているかを考えるのは、簡単ではないし、それだけにまた、面白いのです。


posted by Yeemar at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 語彙一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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