2006年02月13日

ホームページかWebページか

私が大学で担当する授業のうち、いくつかは、コンピュータ教室の並ぶ建物で行われています。この建物で行われる授業は、すべてコンピュータとかインターネットとかを用いるという点で共通しています。

私はそこで、コミュニケーションを主題にした授業を行っていますが、その中では、ホームページを大いに活用します。学生も自分でホームページを作ります。

さて、この「ホームページ」という呼称を、この部署では「Webページ」と呼び、「統一的に学生に教育」している(どうやら最近そうなった)ということです。そこで、次年度のシラバス(講義要項)の中に「ホームページ」とあるものは、機械的に「Webページ」と変換したいがよいかという確認の連絡をもらいました(2006.02初旬)。

統一的に教育している、という話と、今年度まで各授業で呼称に不統一があったという事実は両立しないような気がしますが、まあいいでしょう。今まで「ホームページ」と呼んでいた私も、全体の和を乱すつもりはないので、シラバスの書き換えを承諾しました。

「ホームページ」とは、『広辞苑』第5版(1998年)によれば
インターネットにおけるワールド-ワイド-ウェッブ(WWW)上のサイトの最初のページ。サイトにあるデータを総称して呼ぶ場合もある。
ということです。前半が原義であり、部署としては、「ホームページ」の呼び方はこの原義に限るべきだということなのでしょう。

しかし、「Webページ」の語を使うのは、私の信念には反しています。私は、インターネット上で見られているハイパーテキストのことは「ホームページ」と言って差し支えないと思いますし、とりわけ、あまりコンピュータに詳しくない学生のためには、そう説明するほうがよりよいと考えます。私は「ポインタ」と言わず「矢印」と言い、「エクスプローラ」は「ファイルを一覧表にするソフトであるエクスプローラ」と必ず枕詞をつけて説明する者ですが、同様の思想のもとに、「ホームページ」という一般的な呼称を採用しています。

辞書ではどうでしょうか。「ホームページ」を項目に立てている辞書はたくさんありますが、「ウェ(ッ)ブページ」を載せている辞書はありません。『広辞苑』第5版、『日本国語大辞典』第2版、『集英社国語辞典』第2版(2000年)、『三省堂国語辞典』第5版(2001年)、『新選国語辞典』第8版(2002年)、『明鏡国語辞典』(2002年)、『デイリーコンサイス国語辞典』第4版(2004年)、『小学館日本語新辞典』(2005年)、『新明解国語辞典』第6版(2005年)などはいずれもそうです(ただし、『小学館日本語新辞典』には「ホームページ」の語釈に「ウェブページ。」と言い換えが添えられています)。これで「勝負あった」という感じを受けます。

テレビでは「番組ホームページ」とは言っても「番組Webページ」とは言わないでしょう。今、「Google」で検索すると、「"番組ホームページ"」は846件(重複除く、以下同じ)、「"番組Webページ"」は51件、「"番組ウェブページ"」は27件となっています(2006.02.13)。ここでも、勝負はついています。

もっとも、「Webページ」は学術用語であって、一般での慣用がどうであろうと、学問的には厳密を期すべきだという意見もあるでしょう。また、現在高校で行われている「情報」の授業では「Webページ」の呼称を用いているようでもあります(手元の教科書『高等学校 情報A』〈開隆堂〉には「プレゼンテーションとWebページをつくろう」という章があります)。もしかすると、部署としては文部科学省の言い方との整合性を最も重視しているのかもしれません。

しかし、学術用語の「Webページ」が、一般語のいわゆる「ホームページ」と同義であれば、これはどちらの語を使おうが厳密度に差はないというべきです。

ここで思うのは、日本語学の用語が、ちっとも統一されていなくて、それでも研究者同士、無事に話が通じているという事実です。「飛行機が飛ぶ」の「飛ぶ」は「五段活用」なのか「四段活用」なのか。「象は鼻が長い」の「象は」は「主題」か「題目」か「主語」か。「僕は1年生です」のような言い方は「ていねい体」か「ですます体」か「敬体」(これは文部科学省用語と思しい)か。もちろん、どの用語を使うかで激しい論争になることもあるけれど、おおむね、他の研究者の用語には寛容です。ある論文の内部で用語にゆれがあっては大変ですが、そうでなければ、複数の用語の存在が許されていると思います。

もし、日本語学者が複数の用語の存在に寛容であるという見方が正しいとすれば、それは、研究対象がことばであることと関係があるのではないでしょうか。

ひとつの言語は、つねに方言を生んでいます。グループ間、個人間で、ことばは少しずつ異なっています。それを考えれば、研究者Aと研究者Bの用語が違うのは当たり前だ、となりそうです。

もうひとつ、ことばは実物とイコールではないということも見逃せません。臓器移植問題に関連して「生」「死」の定義があれほど論議されても、結局万人の納得のゆく生死の定義は得られませんでした。これは、「生」とか「死」とかいうことばが単なる音声に過ぎず、現実の人の生き死にとはまるで関係がないところに一因があります。

ことばを使ってものを指す行為には限界があって、その足らぬ部分は、「想像」とか「類推」とか「推論」とかいう行為によって補われます。どうせ想像したり類推したりしなければならないのなら、ことばで何もかも定義することにはこだわらなくていい(そもそも不可能)じゃないか、という諦観が、言語の研究者にはある、と言っては極端でしょうか。

ここまで考えていながら、「ホームページ」を「Webページ」に変換することに同意した私は、自分の信念に忠実ではない卑怯者のようでもあります。でも、一概に卑怯ともいえないでしょう。前述のように「どちらの語を使おうが厳密度に差はない」と考える以上、「まあ『Webページ』に変えてもらってもかまいませんよ」と言うのは、私としても筋が通っているのです。

ただし、どちらが厳密度が高いかという問題とは別に、人が自分の使うことばを選ぶ権利は基本的人権に属すると考えます。東京弁を話すか大阪弁を話すか、東北弁にするかウチナーグチにするかは、当人の勝手です。私は、シラバスの用語は組織全体の方針に従うとしても、教室で話すことばは、私自身が決めてよいと考えます。むろん、このような経緯があるからには、学生諸君に対しても「ホームページ」と「Webページ」の両方の用語を提示して、「どちらがよりよいと思うかね?」と問いかけることも必要でしょう。
posted by Yeemar at 23:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 語彙一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
というか、正しいのは「ウェブサイト」ではないでしょうか?
「ホームページ」はブラウザーが起動時に一番最初に開くウェブサイトのことですし、ウェブページというのは寡聞にして聞いたことがありません。
日本ではなぜかホームページが一般化してしまいましたが、世界的に見るとWebSiteが普通です(Googleの検索結果で倍近い差があります)
日本で慣用的にホームページの意味がウェブサイトと同一視されているから、ホームページでもいいという意見もあると思いますが、IEやFirefoxでの設定でも「ホームページ」という語句が使われており、ウェブサイトの意味での「ホームページ」とスタートページとしての「ホームページ」がごっちゃになっています。
せめて、授業で教える時にはこれらの誤用を正して欲しいと思うのは一技術者我が儘でしょうか?
突然書き込みをしてしまい、ご不快になってしまったら申し訳ございませんが、ご一考お願いいたします。
Posted by nicht sein at 2006年02月14日 16:32
上の話は、「ホームページ対Webページ」を「ホームページ対ウェブサイト」と読み替えていただいてもいいと思います。仮に所属組織が「ウェブサイト」の語を採用するなら、それに合わせるでしょう。

私の立場としては、「他の人が、ある呼び方を採用したいならば、それを尊重する。また、組織として意思統一が必要であれば、それに合わせる。しかし、自分なりの語感を持つ自由はあり、それは基本的人権に属する」というところです。つけ加えれば、「自分が組織の言い方に合わせるのは、本音を言えばうれしくないなあ」という気持ちがあります。

私の個人的な語感を申しますと、「ウェブサイト」は「場所」というイメージを重視した用語だと思います。上の『広辞苑』の説明に「ホームページ」を「サイトにあるデータを総称して……」とあるように、「サイト」はデータのある場所であり、そこに置かれたハイパーテキストを「(ホーム)ページ」と呼ぶ、というのが私の語感です。

それではスタートページの意のホームページを私はどう呼んでいるかというと、「スタートページ」です。仮に、私がだれかにブラウザの設定で「ホームページ」欄について説明するときは、「そこには起動時に最初に表示させたいホームページのアドレス(URL)を入れてください」と言うでしょう。

私も「ウェブサイト」という言い方を使ったこともあります。しかし、その後(ふだんも、授業でも)「ホームページ」と言うことに方針を変えていました。ただ、ご指摘のように、「ウェブサイト」という言い方もあるため、それぞれのことばの使われている経緯を学生に説明することは有益でしょう。

「Webページ」は、教科書で使われていることは確認しましたが、学習指導要領にはありません。指導要領に基く指導書にあるのかもしれませんが、未確認です。
  ◇
なお、「ホームページ」と「ウェブサイト」については、道浦俊彦さんが「平成ことば事情」の2001で書いておられます。
http://www.ytv.co.jp/announce/kotoba/back/2001-2100/2001.html#1

この中で、2001.12.07の「日本経済新聞」夕刊に「対象をホームページ(HP)などウェブサイトにも拡げる」のように「ホームページ」と「ウェブサイト」を別概念で使っているのが注意を引かれます。たしかに、一般にも、「検索サイト」とは言っても「検索ホームページ」とはあまり言わないような気がします。
Posted by Yeemar at 2006年02月14日 23:12
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