2006年01月31日

やられますね、いい感じのKO。

NHK「プロジェクトX」の最終回スペシャル(第2部、2005.12.28 21:15)を見ていた時のこと。木村拓哉さんが番組についてコメントしていました。
プロジェクトXで取り上げられてる人たちって、わりとその猪突猛進型というか、ばーんってロックオンしたらもうそこに向かってだーって突き進む人たちばっかりじゃないですか。〔VTR省略あり〕それがみんなね、やられますねいい感じのKOをさしてくれるというか。〔省略あり〕でその当人がスタジオに来てて、VTR明けでその人たちの感想を聞く空気感とかあったじゃないですか。おれあのね、間はね、今、今ね、言ってるだけで、やばいすね、今、ちょっとね、来てますね。〔省略あり〕プロジェクトXコアファンとしては、あの間が好きです。
これだけのコメントの中に、私ならばまず使わないことばがいくらもあって、感嘆しました。さすがは、流行の先端を行く人だけのことはあります。

「プロジェクトの進行を見ていて非常に感動した」と言っているらしいことは分かりますが、「感動」「感激」「共感」など、よく聞くことばは一切使っていない。代わりに、「やられる」「いい感じのKO」「やばい」「来てます」ということばで、自分の感情を表現しています。ただ、不十分な描写という感じは残り、もっと別の言い方にできないかという気がします。

「やられる」は、私ならどう言うだろうか、考えてみましたが、たしかに、うまい言い換えのことばが見つかりません。「やられる」「KO」と言うからには、「殴られたような衝撃」ということなのでしょうが、決して暴力的な感じはありません。「魅了される」という気持ちも入っているように思われます。客観的なことばで言おうとすると、たとえば、「人間というのはここまでできるものかと、驚く気持ち、あきれる気持ち、そして心からの称讃の気持ちが……」などと、いくつも語句をつながなければならないでしょう(これで不足なら、さらに語句を加えるしかありません)。

「やばい」「来てます」は、「泣いてしまいそうで困る」とか、「涙が目の内側まで達しています」とかいうことでしょう。しかし、単に「もう涙があふれてしまいそうで、困ります」という表現だけでは足りない内容を言おうとしているようです。これも、彼の気持ちを客観的に正確に言おうとすれば、語句をいくつもつなぐ必要があるでしょう。

厳密なことばは、光の強いサーチライトのようなもので、一部分ははっきり照らせるけれども、全体を明らかにできないこともあります。それに対して、「やられる」のような漠然としたことばは、光は弱い(意味はもうひとつよく分からない)けれども、広い範囲を照らせるランプのようなものです。暗くても、とにかくものを照らす(気持ちを表現する)ことには成功します。木村拓哉さんは、あえて褒めるならば、こういった漠然としたことばの名手であるかもしれません。

なお、「ロックオンする」は最近よく聞くようになったことば(私が始めて聞いたのは2005.02.19)。英和辞書によれば、「連結する」「(ミサイル・レーダーなどが)自動追跡する」ということですが、「対象をしっかりとらえる」とか「対象から目が放せなくなる」とかいうような意味で使っているのかと思います。

「コア(な)ファン」は、和製英語でしょうか。好きな対象の中心(core)までどっぷりと入り込んだ、徹底的なファンということか、骨の髄まで対象にほれたファンということか、私はまだよく理解していません。

「空気感」は、私が最初に注意を向けた例は2004.05.04放送のNHK教育「日本語なるほど塾・4月のおさらい増刊号」でした。山根基世アナウンサーが、
井戸端会議なんていうの、ああいう世間話をする場というのは、そういう空気感をつかむにはいい場だったんでしょうね。
と言っていました。
posted by Yeemar at 14:39| Comment(4) | TrackBack(2) | 表現・文章一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「コアなファン」というのは、「ファン」と名付けられる人たちの中で、周縁部でなく中心(核)に位置する人たちのことを指すのではないでしょうか。
Posted by toh'yama at 2006年02月04日 22:30
『デイリーコンサイス国語辞典』第4版には「コア1 core 核.中心.|〈ダ〉中心的.▼〜なファン」とありますね。

そうすると、「プロジェクトXコアファンとしては……」というのは、自分で自分のことを「中心的なファン」と言っているわけで、ちょっと引っかかる使い方ではありますね。
Posted by Yeemar at 2006年02月05日 01:47
いつも楽しく拝見しております。
「コアなファン」はtoh'yamaのおっしゃるとおりの意味でよいと思います。
巷ではかなり使われている言葉だと思います。ここ10年ぐらいでしょうか。
「ライトなユーザー」に対する「ヘビーユーザー」といったような意味ともいえましょう。個人的には「オタク」のマイナスな印象を払拭する言い方としても使われているという印象です。
こちらの定義付けも参考にどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A5%A2%A4%CA%A5%D5%A5%A1%A5%F3
Posted by ぷよる at 2006年02月06日 23:17
ご紹介いただいた「はてなダイアリー」の定義には、「中心的な」「中核的な」の意味がない点に注意が引かれます。「コアな」について少し用例を補い、「コアなファン」に書きました。
http://yeemar.seesaa.net/article/12901184.html
Posted by Yeemar at 2006年02月07日 04:45
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対校 木村拓哉発言
Excerpt: こちらに、続きを書きました。
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Tracked: 2006-02-05 04:19

コアなファン
Excerpt: 関連記事がこちらに。
Weblog: きょうのことばメモ
Tracked: 2006-02-07 04:41
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