記事では、〈静かなブームを呼んでいるLOHASな大金持ち/伝説の倹約家 本多静六の「もったいない」人生〉というタイトルのあとに、次のようなリードが続きます。
株ブームのなか、本多静六が静かな人気と聞いても、ピンとこないかもしれない。戦前の東大教授で日比谷公園を設計した林学者、と言われても知らないだろう。だが彼は、本職の傍ら投資で財産を築いた「お金持ちになる達人」であり、幸せに生きる「人生の達人」でもあった。没後53年。今こそLOHASな静六に学べ――。(「週刊朝日」 2005.11.18 p.36)ここだけを読むと、「LOHAS」とは「倹約して」「財産を築く」ということかという印象を受けます。そして、事実、この記事では本多静六という人の貯蓄法を紹介しているのです。それなのに、本文のどこにも「LOHAS」の語を説明している箇所がありません。
記事の様子からすると、「LOHAS」は、私が知らないだけで、すでに広まっていることばらしい。そこで、インターネットの「デイリー 新語辞典」(三省堂)で調べてみると、「LOHAS」は「ロハス」または「ローハス」と読むということです。「lifestyles of health and sustainability」、すなわち、「健康的で持続可能なライフスタイルのこと。また,それを志向する市場のこと」だそうです。
いつごろから使われ始めたことばでしょうか。NPO法人ローハスクラブのホームページの解説によれば、すでに「日本経済新聞」2002.09.21で大和田順子氏が「環境重視の生活様式 LOHAS」のタイトルでアメリカの状況を報告しており、これが「ロハス」(記事中では「ローハス」)についての本邦最初の報告だということです。
人に聞いてみると、テレビでも、新聞の特集でも、最近は「LOHAS」が注目されているといいます。健康や環境に配慮した生活をするためには、これまでは窮屈な思いをしなければいけないと考えられていた。しかし、そうではなく、多少お金はかかっても、無理をせずに、健康と環境を維持していく生活のしかたがロハスなのだそうです。
さて、そうすると、先の週刊誌の記事は、どうもずれているのではないかという気がします。そこに紹介されている林学者の生活は、まさしく窮屈な思いをしてお金を貯めるというものだからです。
25歳で今の東大農学部の助教授になった静六が実施したのが、「4分の1天引き貯金法」だった。定期収入は4分の1を、臨時収入は全額貯金する。当初は生活が苦しく、おかずが「ごま塩」の日々もあり、子どもたちを気の毒に思ったという。ごま塩だけをおかずにして暮らす生活は、おそらくロハスの精神とは異なるものでしょう。
これまでロハスなるものを見たことも聞いたこともなかった私が言うのもどうかと思いますが、この記事の記者は、新しがってこのことばを使ってみただけなのでしょう。しかも、そのことばについての理解が不足していたため、結果としてとんちんかんな記事が出来上がってしまいました。私は、この記事から、「LOHAS」というのは要するに「倹約」とか「清貧」ということなのだと理解しました。同様に理解した読者も、きっと少なくないでしょう。
ことばの意味というのは、こういうことからだんだんずれてゆきます。ローハスクラブの人が聞いたら残念がるでしょう。