2005年12月29日

大村崑さんの身振り手振り

NHKのBS2で「特集・あの日・昭和20年の記憶・集中アンコール」(2005.12.29 13:00放送)を見ました。多くの著名人が終戦時の体験を語る番組です。

この中で、終戦時に13歳だった俳優の大村崑さんの話し方には感心しました。地元神戸の進駐軍キャンプで米兵からパンや缶詰などをもらった体験を語ったのですが、身振り手振りがじつに真に迫っていて、その時の様子が手に取るように伝わってくるのです。

ことばだけを引用してもしかたがないのですが、まずは話の内容を読んでください。
大村 それから僕は最もうれしかったのは、僕だけに「お前ら、ほかの人間取るなよ」って(進駐軍の)兵隊さんが「お前だけだぞ」って言って、(交換品の)掛け軸を渡した僕に、(フェンスを)上からよじ登ってこんな缶詰落としてくれたんですよ。こんな大きな缶詰。国防色のにおいして……色の。ほんと、軍隊が使うやつ。英語がいっぱい書いてあって。それ持って帰って。おふくろが「それは毒入ってる」って言うんだけどね、「大丈夫だ」って言って、開けたら何が入ってたと思います? ソーセージが入ってた。このぐらい(親指大)の太いソーセージがこのぐらいの入れ物にぎっしり入って、オイルが上に載ってんですよ。で、ホークで、こう突いて、ぎゅーっと真ん中をすぽーっと出したら、六角形か七角形ぐらいな形、もうソーセージが両脇から押さえられた(それが)すこーんと抜けるんですよ。それをこう、かーっと口へ持ってきて、鼻に感じた時のにおいがね、いまだに鮮明に覚えてる。食べた時に、「なんて、なんてこんなおいしいものがあるんだろう」って……。
こうして文章で紹介すると、話術の魅力はほとんど抜け落ちてしまいます。実際に崑さんが話す様子は、文章の何倍もおもしろく、少年の彼がもらったソーセージがいかにもうまそうに感じられました。

話をおもしろくしていたのは、彼の身振り手振りです。米兵が「ほかの人間は缶詰を取るなよ」と子どもたちに注意する場面では、彼は米兵になりきって目の前の子どもたちに人差し指を向けました。米兵がフェンスをよじ登る場面では、少年の自分に戻って高いところを見上げました。また、「こんな缶詰」と言う時には両手で赤ん坊の頭くらいの大きさを示し、さらに、ソーセージの缶詰を食べる場面では、缶を開ける手つき、フォークを突き刺す手つき、ぎゅうぎゅう詰めのソーセージを引き抜く手つき、そして口の所に持って来てかぶりつくしぐさをして見せました。これらの動きが、聞く側を話に引き込むのです。

もちろん、崑さんはことばによって、缶詰の大きさがどうであったか、色はどうかといったことから、中のソーセージの形状や油の様子まで、細かく描写しています。これだけでも大した話術であり、聞き手はかなりはっきりとしたイメージを受け取ることができます。

しかし、ことばには限界があります。崑少年のその時の様子を映画のように写し取ることは簡単ではありません。ある種の小説のように、ある瞬間を何ページにもわたって描写すれば、映画の精密に多少は近づくかもしれませんが、それでも表現できない部分は多いでしょう。

身振りや手振り、そして声の調子や顔つきなどが、こういうことばの欠点を補います。崑さんは、こういった言語外のさまざまな表現手段を総動員することで、聞き手を60年前のソーセージの缶詰の前に拉し去ってしまいました。
posted by Yeemar at 23:00| Comment(0) | TrackBack(1) | コミュニケーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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