2008年10月02日

麻生首相の演説の文体

9月29日、麻生新首相が所信表明演説を行いました。所信表明というよりは、政権交代をうかがう野党民主党への代表質問の色合いが濃く、異例の演説だと驚きをもって迎えられました。

私も有権者であるからには、演説の内容については思うところがありますが、ここは日本語について述べる場ですから、一切省略します。ここでは、新首相の演説文の特徴について指摘しておきます。

新聞で演説を読んで、すぐに、「ああ、これは役人の手がほとんど入っていないらしい」と思いました。首相の演説というよりは、政治家が夕刊紙に書くコラムのような文体です。〈〔民主党が〕のめない点があるなら〉などという格調を欠く表現が目につきますが、分かりやすいことは確かです。分かりやすいというのは、内容の適否や真偽について、聞き手(読み手)が判断しやすいということです。

首相の演説というものは、一般に、各省庁の役人が書いた原案をつぎはぎして作るものだそうです。そのせいか、ふつうはたいへん読みにくいのです。一文の中にたくさんの情報を欲張って盛りこんでいて、ついていけなくなります。

麻生首相の演説には、情報を詰め込む文は目立ちません。むしろ、〈経済成長なくして、財政再建はない。あり得ません。〉のように、「ない」を「あり得ません」にただ言い換えただけのところがあったりして、情報の密度は低いのです。ゆっくり進む授業と同じで、これは聞き手の理解を助けます。首相が何に積極的で、何に消極的かということが、よく分かります。

分かりやすいということのほかに、文末が多様であることも特徴です。役人の下書きに基づく演説は、一種の法律文のような趣があって、文末も型にはまっています。ほぼ10年前の小渕首相の所信表明演説(1998.08.07)を分析すると、7,461字、118文(私の計算による)のうち、「ます」で終わる文が95、「です」が10、「た」が7、「ん」が6です。長文の演説の語尾が、わずか「ます」「です」「た」「ん」の4種類しかありません。

私が文章を書いたとしても、「ます」「です」「た」「ん」が多くなります。この私の文章も、書き終えてから確かめると、(下の箇条書きの部分を除いて)この4つの語尾だけでできています。私の文章も役人ふうなのかもしれません。

麻生首相の演説は、がらっと様子が変わります。6,026字、206文のうち、「ます」で終わる文が106、「ん」29、「です」23、「か」10、「た」9、「ある」3、「を」3、「こと」2、「ましょう」2という具合です。このほか、1例ずつ出ているのが、「当たり前」「いく」「強化」「経済成長」「結構」「三年」「手段」「する」「たい」「立ちすくませる」「と」「取り組む」「無い」「…ない」「なる」「に」「不足」「ほしい」「補正予算」です。

「か」が多いのは、もちろん、民主党への詰問調の演説だからです。また、いわゆる名詞止め(体言止め)を多用していること、丁寧体の中に普通体を混ぜていることなどが、文末を多様にしています。これほど型破りな文体の首相演説は、後にも先にもないのではないかと思います。

最後に、私は麻生首相の演説をどう評価したかをまとめておきます。

1 文章が分かりやすい。したがって、内容がいいか悪いかが判断しやすい。
2 文末が多様。
3 格調に欠ける。

以上です。
posted by Yeemar at 07:16| Comment(1) | TrackBack(0) | 表現・文章一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは

2は評価じゃなくて分析なんじゃ?


Posted by まあくん at 2009年08月08日 05:58
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